お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。


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「ついに、戴冠式ね。サーシャと一緒に来ることになるなんて、想像もしていなかったわ。」


雲ひとつない晴天。

辺りに響き渡るトランペットの音色。

国旗がはためく城の前で、馬車が止まった。

私の言葉に、外套を羽織りフードで顔を隠すサーシャは緊張気味に呟く。


「お姉さまと一緒だとはいえ、ちょっと緊張してきちゃった…。私は、スピーチが始まるまで馬車で待機していればいいのよね…?」


「えぇ。メルさんが後から合流してくれるらしいから安心して。私は、サーシャの出番までに黒幕を突き止めて成敗するわ…!」


気合い十分で拳を握りしめる私。

ついに、敵のボスと対面する日が来た。

どんな罠を仕掛けてくるかは予想もつかないが、今日はアレンも一緒だ。今まで何どもライバル令嬢を返り討ちにしてきた相棒が隣にいてくれるなら、怖いもの無しだろう。

しかし、ガチャ、と馬車の扉を開けたアレンは、さらりと私に声をかける。


「では。いってらっしゃいませ、お嬢様。」


「えっ?!」


専属執事としてはあるまじき発言。

パッチリと目を丸くしていると、アレンは琥珀色の瞳を細めて私に続けた。


「お嬢様は、今日はルコットと行動を共にしてください。ルコットがお付きの執事であるところを周りに見せておけば、サーシャ様と入れ替わっても怪しまれずに済むでしょう。」


「た、確かにそうだけど…。アレンは?一緒に来ないの?」


「えぇ。私は所用がありますので。」


「また所用…?!」