確実に重い一撃がはいったような、鈍い音。

ニヤリと笑う執事達。

しかし、がくん!と地面に倒れたのは、余裕綽々で先制攻撃をしたはずの執事の男だった。


一瞬で、その場の空気が変わる。

男達は、死角で何が起こったのかさえ把握できない。

その時。アレンの気だるげな低い声が辺りに響いた。


「確かに、ここは無法地帯だ。…なら、執事を演じる必要もねえな。ニナを馬車に帰しておいて正解だった。」


白い手袋を外し、しゅるり、とネクタイを緩めたアレンは、キッチリと留めていた襟を開ける。

ごくり、と喉を鳴らす男達に、琥珀の瞳が細められた。


「ひとつ、言っておく。お嬢様に飼い慣らされていない“俺”は、お行儀が悪い。」


勢いに呑まれ、身を引く男たち。
アレンは挑発するように言葉を続ける。


「何ビビってんだよ。衛兵は来ないんだろ?俺に洗礼とやらをしてくれるんだよな、先輩。」


『っ、くそ!調子に乗りやがって…!!』


男達が、一斉にアレンへと飛びかかった。

強く地面を蹴ったアレンは好戦的にニヤリと笑う。


『がはっ…!』


男達は、誰も想像していなかった。まさか、たった十九歳の青年に全員返り討ちにされるなど。

彼らは知らないのだ。自らが敵に回した青年が、どれほどの実力を持つ男なのかも。