「もし、紅茶を飲んだ私が、貴族の飲み物はこんな味なのね、って勘違いして黙っていたらどうするつもりだったの?私はパーティーに慣れてないし、アレンの作戦に気付かなかったら終わりだったわ。」


「それはさほど心配していませんでしたよ。もし勘違いしても、お嬢様の性格上、にがーーいっ!!と叫んでいたでしょう?」


「し、失礼ね!サーシャを演じているんだから、そんなことしないわよ!」


ここまで読まれていたなんて、少し悔しい。

アレンが不在の間タバスコケーキで、からーいっ!!と叫んだことは墓場まで持って行ってやる。


その時。

ふっとアレンの顔つきが変わった。何かを察したような彼の雰囲気が、かすかに鋭くなる。


「アレン…?」


ぽつり、と彼の名を呼ぶと、アレンは何も悟らせないような笑みで私に答えた。


「お嬢様。先に馬車の方へ戻っていてください。私は、所用を終えてから行きますから。」


「また所用?今度は一体何をするつもり?」


「内緒です。」


きっぱりと言い切った彼。

にこにこしたアレンに眉を寄せる私だが、彼は何も説明する気がないようだ。


「早く戻ってきてね。」


そう言い残した私が、くるりと背中を向けて庭を出て行く間際。私を見つめるアレンは静かにまつげを伏せたのだった。