大きなミスを犯すことを回避した彼は、まるで命の恩人を見つめるように私を見上げた。


「お礼なんていいわ。貴方が会場を見渡して細やかな気配りをしてくれるおかげで、交流会が上手く回っているんですもの。こちらこそ、貴方に感謝するわ。」


『…!も、もったいないお言葉です…!』


「それに、私が気付いたのも本当に偶然よ。なにせ、私よりもパーティーに慣れていらっしゃる上流階級のご令嬢方が、全く気づかなかったくらいですもの。」


私の一言に顔をひきつらせる令嬢軍団。

まさか、私を陥れるために放った一言が、刃付きのブーメランとなって飛んでくるなんて思いもしなかったらしい。

私は、くるり、とコックの方を向いてさらに続ける。


「他国のゲストが多くいらっしゃる中で、我が国特産のレーヴェンのお肉を使った料理を出した気遣いにも感激するわ。下処理だって大変でしょうに、さすが一流のコックね。」


『お優しいお言葉、深く受け止めます。…それで、サーシャ様。私の作ったケーキはどうでしたか?』


「え?」


にこやかな笑みに戻ったコックが、悪気のない純粋なトーンで高らかに続ける。


『先程、そちらのご令嬢方から辛いものがお好きだと伺ったものですから。とびっきりのタバスコケーキをご注文いただきましたでしょう?』


『『『っ!!!』』』