お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。


思わず目を見合わせて笑う二人。

くいっ、と長い指で唇を拭うアレンの仕草が、色っぽくてチカチカする。


ゆっくりと立ち上がったアレンは、私に手を差し出した。指を絡ませると、微笑んだ彼は、きゅっ、と繋いだまま私の手を引く。


「帰りましょうか、お嬢様。ヴィクトル様から連絡がいったとはいえ、サーシャ様とルコットも心配しているでしょうから。」


“それと…”


静かに言葉を続けたアレンは、少しだけ頰を褒めて小さく呟いた。


「帰ったら、私から奥様と旦那様に伝えます。…お嬢様と執事の関係から、一歩先に進みたいと。」


それは、アレンなりのけじめだった。

たとえ執事ではなくなっても、一人の男として側にいる。

アレンは、もとより私から離れるつもりなどなかったのだ。いつものエスコートとは違う公私混同の手が、私の手を優しく握っていた。


「お母様もお父様も、きっと許してくれるわ。おてんばな私を預けられるのはアレンしかいないと昔から言っているもの。」


「それは、執事としての話でしょう?信頼されているにもかかわらず、実は下心があったなんて裏切り…追い出されてもおかしくないですよ。」


眉間にシワを寄せる彼に、私はくすくすと笑う。


「その時は、私と二人でメルさんの田舎にでも逃げればいいわ。まるで国外追放ね。」


「悪い人ですね、貴方は…」


「アレンが悪い人にしたのよ?」


“私でよければ知恵をお貸ししましょう、お嬢様。

ーーこの私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。”


アレンの一言が、全ての始まりだった。

おてんばお嬢様と腹黒執事。二人は最高の相棒で、二人でなかったら、きっと乗り越えられなかった。


(そして今、私たちは…)



港の潮風に吹かれ、手を重ねた二人の影が、コンクリートの壁に伸びたのだった。



第4章*終

ー完ー