お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。


ぴた。


目が合った瞬間、動きが止まった。

アレンの言葉の意味を察した直後、抱きかかえられて逃げ場がないことを悟る。


「ひ、卑怯よ…!今、その話を蒸し返すなんて…!!」


「また逃げられても困るからな。俺はゴキブリより強い男に勝ったんだから、ご褒美くらいくれてもいいだろ。」


「やっぱりさっきの根に持ってるのね?!」


ぐい!と胸板を押し返すが、もう抵抗は出来ない。

私を見つめて逸らさない琥珀の瞳が、頰を真っ赤に染めた私を映している。

しかし、私の脳裏をよぎっていたのはバットエンド。

主従関係の一線を越えることが禁忌とされているのは暗黙の了解だ。メルさんの語った過去のように、押し込めていた熱に翻弄されて別れることとなったお嬢様と執事の悲恋を繰り返したくはない。

アレンは、何も言わなかった。

ただ、じっと私を見つめたまま、返事を待っている。


「…言えないよ…」


ぽつり、と響く私の呟き。

アレンが琥珀の瞳を見開いた瞬間。言葉の続きを紡いだ私の目に涙が溢れた。


「だ、だって…、私が好きって言ったら、アレンはいなくなっちゃうんでしょ…?!」