お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。


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「アレン、どこまでいくの…っ?」


騒々しい戦場が、遠ざかっていく。

インカムでメルさんと連絡を取り終えたアレンは、やがて、潮の匂いがふわりと香るコンクリートの堤防で足を止めた。

目の前には、灰色のテトラポットと真っ青な海が広がっている。


ドサ…!


コンクリートの壁に背中をつけた彼は、そのまま体を預けるようにしてずるずると座り込んだ。すっぽりと抱きかかえられた私も、彼の腕の中に収まったまま。

ぎゅう、と背中に回る彼の腕は、私を離そうとしない。


しぃん…


静まり返る港。

二人の鼓動だけを感じる。


「…っ…あ、アレン…」


緊張と戸惑いの中、ぽつり、と彼に話しかけようとした瞬間。ぎゅっ、と、私を抱き込む腕に力が込められた。


「無事でよかった。」


(!)


耳元で聞こえた震える声。

その弱々しいトーンは、先ほどまで複数の敵を相手に殴り合っていたアレンのものとは思えない。


ぶわっ…!


彼の声を聞いた瞬間。無意識に涙が溢れた。

ひっく、ひっく、と、揺れる肩。

泣き顔を隠すように彼の胸に顔を埋めると、アレンは緩やかに私の頭を撫でる。


アレンだ。

アレンが、ここにいる。


それ以上に心強いことなんてない。


“また会えた”

“助けに来てくれた”


それだけで、十分だった。