お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。


そのセリフは、五年間知ることのなかったダンレッドの気持ちだった。

一番側で二人を見守ってきたダンレッドだからこそ、選び取った未来なのだ。


「…やめろよ。そういう不意打ち…」


「あははっ!照れてんの?安心してよ。俺が騎士団長をやめない限り、メルと彼女の繋がりが途切れることはないから。」


「余計なお世話。」


ーーブブブ。


その時。ふと、トレンチコートのポケットから聞こえる電子音。その着信主に、メルのローズピンクの瞳が見開かれた。

素早く電話に応えたメルは、緊迫した声で問いかける。


「アレンか?状況は?」


その言葉に、隣ではっと息を呑むダンレッド。

しかし、メルの表情が和らぎ、肩の力が抜けたのを見たダンレッドは、ニナの救出が上手くいったことを察して胸をなでおろした。

穏やかな瞳でまつげを伏せるメルは、スピーカーに向かって静かに続ける。


「そう。よくやったね。…あぁ、こっちもなんとか片付けたよ。…うん。お前はニナの側にいてやりなさい。」


弟子の成長に、心なしか浮かれた声。

思わず親目線になるメルの口調に、ふっ、と微笑むダンレッドだったが、やがて、メルは静かに告げた。


「お前は手離すなよ、アレン。」


何を、だなんて無粋な質問を飛ばさなくても容易にわかる。それは、同じ轍を踏んだメルだからこそ言える言葉なのだ。

やがて、プツ、と通話を切ったメルを、ちらり、と横目で見やるダンレッド。

相棒を映す薔薇色の瞳は、師匠としての見栄も、男としてのケジメも、全てを察した温かい眼差しだった。


「やっぱりカッコいいね、メルは。」


「あははっ!今さら?」


そして。そう答えたメルも、どこか吹っ切れたような表情を浮かべていたのだった。