お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。


それは、迷いない響きだった。

メルの瞳には、遠くにそびえる城が映っている。そこには、過去に捨ててきた情があった。

会える距離にいたとしても交わることはない。「こんな顔、見せたくないし。」と唇の傷を拭ったメルは、後付けのような理由を口にした。

そんな彼に、無言で薔薇色の瞳を細めたダンレッドは静かに続ける。


「メル。俺が、なぜ隣国の騎士団長になったか分かる?」


それは、メルにとって予想外の質問だったらしい。

彼が騎士団長になったのは、かつて、お嬢様の政略結婚が決まった時に、専属護衛の実力を認められ、王直々に引き抜かれたからだと思っていた。

しかし、メルが眉を寄せたその時。穏やかなダンレッドの声が、メルの元に確かに届いた。


「俺が、メルと彼女を繋ぐ存在であり続けたかったから。」


「…!」


「メルが執事を引退して、彼女が隣国の王女になって、メルが手を伸ばしても涙を拭けないところに彼女が行っても。俺が、メルの代わりにあの人の居場所を守れるように。」