お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。



ゴッ!!


辺りに響く鈍い音。

わずかに飛ぶ返り血。

顔面に拳を受けた男達は、戦意を失って地面に沈んだ。


(ーーっ!)


目の前の光景に、がくん、と足の力が抜けた。膝から崩れ落ちる私を抱きとめたのは、力強いアレンの腕である。


トン…ッ!


…と。

触れ合ったシャツ越しにアレンの体温を感じた、その時だった。


「大丈夫か!アレン君!!」


緊張感のある声とともに、鎧を着た城兵達が一斉に港へ押し寄せた。その先陣を切るのは、ヴィクトルだ。

どうやら、アレンから連絡を受け、応援として駆けつけてくれたらしい。返り討ちに遭って倒れ込む男達に、次々と手錠がかけられていく。

それはまさに、形勢逆転。

悔しげに顔を歪める誘拐犯達も、もう抵抗する気すらないらしい。


ぐいっ…!


助かった、という安心感が胸に広がると共に、ふわりと抱きあげられる私。

思わず彼を見上げると、アレンはさらり、とヴィクトルへ声をかけた。


「すみません、後を頼みます。」


スタスタと歩き出すアレンは、一切こちらを見ない。まともな会話もなく、戸惑いと緊張の中、ただ、アレンに体を預ける私の頭は混乱していた。

そして、アレンに抱きかかえられたまま港を出て行く瞬間。私の視界の端に、全てを察したように笑顔で頷くヴィクトルの姿が映ったのである。