お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。


ーーコツ。


モニカを抱き寄せるサーシャに歩み寄るアレン。

その琥珀の瞳は、冷静な光を取り戻していた。


「誘拐犯の居場所。本当は、知っているんでしょう?」


静かに尋ねられた言葉。

ぴくん、と肩を揺らしたモニカは、呼吸を整えるように目を閉じ、そっ、と答えた。


「…ルズベリの廃港。そこに、密偵を乗せた船がとまっているわ。」


ごくり、と、喉を鳴らすアレン。

そんな彼を見つめたサーシャは、無言で頷き、祈るような表情を浮かべた。


タッ!


素早く駆けていく背中。

アレンを見送ったルコットが、そっ、とサーシャに声をかける。


「間に合いますかね…」


声を震わせて眉を下げるルコット。

しかし、今にも不安に押しつぶされそうな心を奮い立たせたサーシャは、そんな彼の言葉に強く答えた。


「大丈夫よ。アレンなら、きっと。」


“私、もう、これからは何をされたって泣いて帰ったりしないわ。涙を流すのは、これで最後。お姉さまみたいに強くなるから…!”


ニナと誓った約束を心の中で反芻するサーシャは、遠ざかる燕尾服を見つめ、ぐっ、と手のひらを握りしめたのだった。