はっ!と、その場にいた全員が息を呑んだ。
目元を赤くしたサーシャは、ふわり、と私を抱きしめる。
「私、もう、これからは何をされたって泣いて帰ったりしないわ。涙を流すのは、これで最後。お姉さまみたいに強くなるから…!だから、私のために毒を飲むなんて、たとえ演技でも二度としないで…!」
ぶわっ!
つられるように涙が込み上がる。
何度も何度も頷くと、私にぎゅう、としがみついていたサーシャは、やっと泣き笑いの表情を浮かべた。
「サーシャ…!無事か?!」
その時、血相を変えたヴィクトル王子が控え室に駆け込んでくる。
どうやら、ダンレッドから地下庫に閉じ込められそうになった一件を聞いたらしい。
うまく返り討ちにしたことを知ると、王子は、ほっ、と肩の力が抜けたようだ。
サーシャの周りに集まった味方達に、私は微笑ましい視線を送る。
もう、サーシャは、私という悪役令嬢の盾が無くたって大丈夫だ。
どんな敵が現れたって、息を切らして助けに来てくれる大切な人が出来たのだから。
「戴冠式には出れそう…?」
そっ、とそう尋ねると、サーシャは優しく目元を拭って、にこり、と笑った。
「うん…!今まで、私のために力になってくれたお姉さま達に恥じないよう、やり遂げてみせるわ…!」
私と瓜二つの彼女が、そう、強く言い切った。
そして、戴冠式の開式を告げるトランペットの音色が高らかに城に響き渡った頃。
ヴィクトル王子の隣に立ったサーシャは、覚悟を決めたような確かな足取りで、国民の前に進み出たのだった。



