顔を上げると、綺麗なローズピンクの瞳に私が映った。
トレンチコートを羽織る彼は、半ば呆れたように眉を寄せる。
「め、メルさん…!」
名前を呼ぶと、彼は冷ややかな視線を廊下に向けて、言葉を続けた。
「“あれ”を追う必要はないよ。これだけ攻めたら、もう反撃の手は残っていないだろうから。…よくやったね、アレン。ニナも、今までで一番いい出来だったよ。」
終始落ち着いた様子で私をなだめたメルさんは、コツコツとアレンに歩み寄り、そっとレコーダーを受け取る。
一部始終を見ていたらしい彼。
褒められて照れる私達に、ルコットは目を見開く。
「メルさん、まさか、全部知っていたんですか…?」
「あぁ。この策を講じたのは俺だからね。モニカが仕込んだ紅茶も、さっき、すり替えさせてもらったよ。ニナは無事だっただろ?」
ふらり、とよろめいて頭を抱えるルコット。
緊張と安心がジェットコースターのように交互に押し寄せ、全てに気がついた今でも混乱がおさまらないようだ。
私も、この作戦をメルさんから聞いた時は言葉を失った。
以前、“アレンより数倍タチが悪く、したたかだ”と本人から聞いてはいたが、ここまで巧妙な罠を思いつくだなんて。
メルさんは余裕の微笑みで言葉を続ける。
「本当は血のりを使って本格的にやりたかったんだけどね。ニナにやらせたら、ナポリタンを食べてケチャップを口につけた子どもみたいにしかならなかったから。…まぁ、結果オーライだね。」
心配からか、珍しく不機嫌そうなルコットは、ちょっぴりいじけたようにメルさんへ尋ねる。
「どうして、僕には作戦を教えてくれなかったんです…?!」
「ん?敵を騙すにはまず味方から、って言うでしょ?それに、真実を伝えない方が良いリアクションをしてくれるかなと思って。」
「っ!ひどいですよ…っ!」



