ごくり、と喉が鳴る。
燕尾服の胸元から一枚の書類を取り出したアレンは、それを示しながら私たちを見つめた。
「これは、ハンスロット家の屋敷に送られてきたドレスの配達ルートを逆探知したものです。送り主までは完璧に足跡を消されていて辿れませんでしたが、配達は全て、貿易商ラズナー家の管理下にある業者によって行われていました。」
「…!」
「そして、城のコックに確認したところ、事の発端となったタバスコケーキが生み出されたあの日も、発注したはずのないタバスコやハバネロが、ラズナー家の業者から厨房に送られてきていたようです。」
その時、私の心に貿易商のワードが引っかかる。
船で海を越える貿易から小さな郵便物までの国内流通を支えるラズナー家の令嬢が、目の前にいた。
無言で“彼女”に視線が集まる。
「…アレンさんは、私がその黒幕だとおっしゃいたいのかしら?」
モニカが、微塵も焦りを感じさせないトーンで低く呟いた。
ひどく落ち着いている様子の彼女は、冤罪だと言わんばかりに言葉を続ける。
「私の家は策略に利用されただけですわ。…私がやったという証拠もないのに、決めつけるなんてひどいです。私は、サーシャ様の友人ですのよ?」



