お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。


私の言葉に口ごもるモニカ。

?、と首を傾げていると、彼女は微かにまつ毛を伏せて言葉を続ける。

どこかいつもと雰囲気が違う彼女に、不気味な違和感を覚えた。

普段はニコニコした人畜無害オーラを飛ばしているモニカだが、今日の表情は人形のように感情が見えない。

すると、モニカは眉を寄せる私に、静かに告げた。


「王子に会えなかったのなら仕方ありませんね。…では、戴冠式が始まるまで少し休憩をしてはいかがです?私、スピーチの前に喉を潤しておいた方がいいかと思って、紅茶の差し入れに来たんですの。」


どうやら、彼女はヴィクトル王子が婚約発表をする噂が本当だと知り、わざわざ贈答品を持ってきてくれたようだ。

妃としてのスピーチをするのは私ではないのだが…、なんて、そんな真実は口に出来ない。

本当は、友人が用意してくれた紅茶はサーシャ本人に飲んで欲しいのだが、せっかく勧めてくれたのだ。厚意に甘えて私がいただいてしまおう。

ふわり、とダージリンのいい匂いが立ち上っている。


「ありがとう、モニカ。じゃあ、遠慮なく…」


ーーと。

私が、彼女の差し出したティーカップに口を付けようとした

次の瞬間だった。