お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。


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「王子ってば、急に予定を変更したのかしら?」


「うーん。戴冠式の準備で、バタバタしているのかもしれませんね。」


コツコツと城の廊下を進む。

眉を寄せる私に、ルコットは苦笑しながら言葉を続けた。


「あ!あそこがサーシャ様に用意された控え室ですね。」


控え室とされた角部屋は、戴冠式の直前にサーシャと入れ替わる時に使おうという話になっていた。

構えていた割に何も罠を仕掛けられなかったことに調子抜けしながらも、私はほっと胸をなでおろす。


ーーと。

私とルコットがノックもせずに控え室の扉を開けたその時。

視界に映ったのは、予想外の人物だった。


「あれ?モニカ…?」


「!」


思わずその名を呼ぶと、びくん!と肩を震わせる彼女。

そこにいたのは、数分前に別れたモニカだった。


「どうしてここに…?私に、何か用?」


私の問いに、彼女の紫紺の瞳が揺れている。

どうやら、ヴィクトル王子に招かれたわけでも、誰かと話をしていたわけでもないらしい。

加えて、私を待っていたにしては挙動が不審だ。

すると、数秒の沈黙の後。モニカは、私の質問に答えようとせず、表情を変えずにぽつり、と尋ねた。


「ヴィクトル様には会えましたの?まだ戻ってこないとばかり思っていましたわ。」


「あぁ。なんだか忙しいみたいで、すれ違っちゃったの。せっかく伝言を伝えてくれたのに、ごめんね。」


「いえ…」