お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。



「ありがとう、モニカ…!助かったわ。」


くるっ、とこちらを見たモニカ。

紫紺の瞳は、いつも通りの色を宿している。


「いえ。サーシャ様のためですもの。…では、私は会場に戻っていますので。また、後ほど。」


コツコツと去って行く背中をルコットと共に手を振って見送ると、急に緊張感が増してきた。

打ち合わせをするなら、サーシャも呼ぶべきかとも思ったが、入れ替わる時にうまく伝言すれば問題ないだろう。

心拍数がマックスに達しているルコットを緊張から解放させるためにも、早く王子と合流した方が良さそうだ。


コツ…


目の前に続くのは、薄暗いレンガの道。

私たちの他に人の気配のないその場所は、足音と呼吸しか聞こえないくらいの静けさだった。

きょろきょろと辺りを見回すルコットは、首を傾げている。


「…?ヴィクトル様、いませんね。地下庫の中でしょうか?」


「うーん、そうかもしれないわね。待たせているなら申し訳ないわ…!はやく行きましょう!」


目の前に現れた地下庫への扉は古びているが、錆びついていた鍵は開いているようだ。


ーーと。

私が扉のノブに手を伸ばした

その時だった。