お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。


はっ!とした。

確かに、今日の流れは手紙のやり取りだけで、未来の旦那と何も打ち合わせをしていなかった。

サーシャ本人ではないにしろ、ヴィクトル王子が私が来ていることを知っている以上、話くらいはしておくべきだろう。


「さ、こちらですわ。」


にこり、と笑ったモニカは、すたすたと会場を出た。

私とルコットは、王子との対面にドキドキしながら彼女の後に続いていく。


「ぼ、僕、ヴィクトル様とちゃんと話すのは初めてです。サーシャ様の専属執事として、しっかり挨拶しなきゃ…っ!」


今にも心臓が飛び出そうになっているルコット。ぷるぷる震える子犬のような彼にくすりと笑っていると、やがて静かな空気に包まれた城の裏手までやってきた。

古びたレンガ造りの倉庫が立ち並び、蔦の絡まる壁が高くそびえ立っている。


(随分、ひとけのない場所ね…)


そこは普段、城の兵も立ち入らない領域らしい。こんな場所を待ち合わせに指定するなんて、よほど周りに聞かれたくない内容なのだろうか?

すると、先頭を歩いていたモニカが、ぴたり、と足を止めた。

つられて立ち止まると、彼女はこちらを振り向かずにぽつり、と呟く。


「ヴィクトル様は、この先の地下庫で待ち合わせたいとおっしゃっていましたわ。私は部外者ですので、ここまでの案内でよろしいかしら?」