お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。



社交界で出来た唯一の友達に、つい、テンションが上がる私。

すると、モニカはおずおずと私に向かって口を開いた。


「この前の舞踏会のこと、噂で聞きましたわ。…その、大丈夫ですの…?」


「!うん!一時はどうなるかと思ったけど、なんとか信用を取り戻せたみたいで。」


にこり、と微笑むモニカは、「そうですか…!よかった…」と息を吐いている。

すると、彼女は紫紺の瞳をわずかに細め、そっ、と続けた。


「ところで…。今日の戴冠式でヴィクトル様が正式に結婚の発表をなさるのではないかという噂が流れているようですけど…。それは本当ですの…?」


「…!えぇ…、た、たぶん…」


彼女の問いに、私とルコットは思わず顔を見合わせた。

てっきり、今日の計画はサーシャだけに手紙でこっそり伝えられたと思っていたが、どうやら噂になるほど広まっていたらしい。

この会場にいる人は、もうみんな周知の事実なのだろうか。

すると、曖昧ながらも肯定した私の答えに、モニカはわずかにまつげを伏せた。

しかし、それは一瞬のことで、彼女はすぐに穏やかな笑みを浮かべる。


「それは素敵ですわ…!ご結婚おめでとうございます、サーシャ様…!」


「あ、あははっ…!ありがとう。」


本人でもないのに思わず照れ笑いをした私。

ついに、今日、サーシャが妃として認められるんだ。それが、姉として素直に嬉しい。

と、その時。

ふと黙り込んだモニカが、ぼそり、と私に囁いた。


「あ、そう言えば私、ヴィクトル様から伝言を預かっていたんですの。」


「伝言?」


「えぇ。戴冠式前に、直接サーシャ様と会って話がしたい、と。」