お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。


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『あら、サーシャ様!ご機嫌よう…!』


『お会いできて嬉しいですわ…!』


一歩、会場に入ると、次々と挨拶をしてくるゲスト達。

メルさんに習った通り、背筋を伸ばしたままコツコツと足を進める。


(…視線、会釈、微笑み。このスリーステップを黙ってひたすら続ければ、ある程度形になるのよね。…黙っていれば…)


ぎこちない笑みを必死で取り繕い、ボロが出ないことだけを意識して歩いた。

どうやら、メルさんのスパルタ教育のおかげで、その姿は様になってきたらしい。

以前のように、場違いな空気を感じることもなくなった。


(…あ…!)


その時。ふと視界に映るピンクのドレス。

思わず駆け寄った私は、満面の笑みで声をかけた。


「モニカ!」


「…!」


くるり、とこちらを振り向く彼女。

ブロンドの縦ロールが、ふわり、と揺れた。

相変わらず穏やかなオーラを纏う彼女は、私を見た途端に、いつもの微笑みを浮かべる。


「サーシャ様…!お久しぶりです。」


「えぇ、久しぶり!やっぱり貴方も来ていたのね!大きなイベントだから、会場で会えるんじゃないかと思っていたわ…!」