気遣いは嬉しいけれど、尚くんだって疲れているだろうし、さっさと帰ったほうがいい。

そう思い、普段の口調で断ったものの、彼は余裕の笑みを向けて言う。


「頑張った褒美だと思っとけ。残業してる社員に差し入れするのは、俺の中での決まりみたいなもんなんだ」


なにげない言葉だけれど、私を皆と同じ社員として扱ってくれることが嬉しい。今だけ、大人になれた気分。

あっさり厚意に甘えたくなり、口元を緩ませて「……ありがとう」と伝えた。


オフィスを出ていった尚くんは、しばらくして缶コーヒーを二本持って戻ってきた。そのうちの一本を私に渡して、隣の椅子に座る。

ブラックが苦手な私に買ってきてくれたのは、ミルク多めのカフェオレ。いつもはたいして気にしないのに、なんだか今はそれすらも子供っぽく思えてしまう。

この間の泉さんのひとことが、まだ頭の片隅から離れないのだ。歳の差なんて、今さら気にしても仕方ないのに。


「……早く大人になりたい」


両手で缶を持ち、カフェオレのまったりした甘さを口に広がらせたあと、ため息交じりにぽつりと呟いた。

尚くんは不思議そうな顔をして、缶に口をつけたところで動きを止める。