清々しい気分に浸っていたとき、オフィスのドアが開いてスーツ姿の尚くんが現れた。イベントから戻ってきたらしい。

「お疲れ様です」と挨拶する私を見て、彼は目を丸くする。


「なんだ野々宮、まだ残ってたのか」

「はい、これだけ仕上げたくて。熱中してたら皆帰っちゃってました」


私はパソコンの画面を指差して、えへへと笑った。オフィスにいるせいで、ふたりきりなのにお互いに口調がビジネスモードのままだ。

こちらに向かってくる彼にさっそくアドバイスをもらおうと、バナーを見せてみる。


「ダンジョンのホームページのバナーを作ってみたんです。どう、ですか?」


今は眼鏡をしていない社長様は、私の背後から画面に顔を近づけ、じっくりと全体のバランスを見る。

ちょっぴり緊張しながら意見を待っていると、彼は画面から目を離さずにひとつ頷いた。


「初めてにしてはなかなかいい。カーニングもよくできてる」

「ほんと!?」


予想外にも褒められ、私は驚いて勢いよく彼を振り仰いだ。ダメ出しの嵐も覚悟していたのに!

尚くんはゆるりと口角を上げ、「個人的な意見を言えば」と文字を指差す。