西野、リップ塗るのも慣れてるのかな。
だとしたら恐るべし……。
「ん。できた」
その声を合図に目を開く。
「あ、ありがとう」
お礼を言うのもおかしい気がするけど、一応。
少しの間、気まずい沈黙が流れた。
お互い視線を逸らしつつ、タイミングを読み合って。
先に口を開いたのは、西野。
「さっきはごめん。だらしない女は嫌い…とか言って。完全に八つ当たり。本心じゃないから」
「あ、いや。……私もヘンなとこ見せちゃってごめんっていうか。夢中になるといつも周りが見えなくなっちゃって……挙動不審なとこ直さなきゃ。あはは」
真剣な顔して謝られると、どう反応していいのやら。
あたふたしていると、西野が体を寄せてきて、息がさらに苦しくなった。
「……利奈は、そのままでいい」
「っ、え?」
「生意気で、嘘が下手くそで、ちょっと抜けてて。男慣れしてなくて、すぐ赤くなって……」
言葉を切る対タイミングで、目の前が暗くなった。
唇が、静かに重なる。
一瞬だけ。
でも、たしかな感触を残して。
ゆっくりと離れた。
「──────俺にキスされたら、なにも言えなくなるところ……とか全部。変わらなくていいよ」
近すぎてぼやけた視界の中で、
西野が薄く笑ったのがわかった。



