「新しいの買ったの?」

「え?」

「唇、赤い」

「……っあ」



そうだ。
これ落とすために、急いで走ってたんだった!



「え、えと……今日は赤の気分だったっていうかね……? 似合わないのはわかってるんだけど、あはは」




ちょっと言い訳じみてるかな。

でも、西野が買ってくれたのを失くしたなんて言えないし。




「……似合わなくはない。……前のほうが似合ってたけど。赤も案外いいと思う」

「ほ、ほんと?」



西野が素直にうなずくから、つい嬉しくなってしまった。



「よかった~。おととい陸人が選んでくれたんだけどね、似合わなかったら申し訳ないなって思ってたんだ」



女の子慣れしてる西野が“赤も案外いいと思う”って言うなら、信じていいよね?

今日くらいは、やっぱり赤リップのままでいいかもしれない。



ゼロだった自信がちょっとずつ上がっていく。




「なに笑ってんの?」

「んえ?」

「陸人くん好みの利奈なんか、微塵も可愛くないんだけど」




……へ。


言葉の意味を考える暇もなく背を向けられて、唖然とするしかなかった。