ガサゴソしてもない。

内ポケットにもない。



「どうした?」

「リップがない」



そうだ。

たしか合コンが始まる前にリップを塗りに化粧室に行って、そのあと、ポーチじゃなくてスカートのポッケに仕舞ったような。


慌てて両サイドポケットに手を突っ込むけど、指先は何も掴まない。



……落とした?


私、寝てたらしいから、そのときにコロコロ転がっていっちゃったとか?




「どうしよう、リップ」

「失くしたならしょうがなくね?」

「でも、まだ新しいんだよ。2回くらいしか使ってないし」



何より、西野が買ってくれたものなんだもん。

相手がクズ男だろうとなんだろうと、人からもらったものを失くすなんて自分が許せない。




「じゃあ明日買いに行くか」

「え?」

「リップないと困んだろ?明日は部活休みだし、買い物付き合ってやる」

「……うん、行く。ありがとう」




ほんとはリップがないと困るってるんじゃなくて、西野が買ってくれたリップを失くしたから困ってるんだけど。


でも、陸人に“西野が買ってくれた”なんて言えるわけないからうなずいてしまった。