(……え? え? ど、どうしよう)

足は玄関フロアに張り付き、全身はロープでぐるぐる巻きにされたかのよう。身動きができずに身体を強張らせる。

このままではきっと唇が……。
そう思った次の瞬間。


「ワン!」


リッキーがひと際大きく吠えた。

無意識に止めていた息を吹き返し、金縛りが解けた。加賀美から一歩離れ、取り繕ったようにリッキーの頭を撫でる。

(びっくりした……。今の、なんだったんだろう……)

身体の強張りは解けても、早鐘を打つ胸が鎮まる様子はない。
それどころか加賀美を異様に意識してしまい、リッキーを撫でているにも関わらず全神経が彼に向いている野々花だった。


リッキーをリードに繋ぎ、加賀美と揃って外へ出た。散歩へ行こうとなったのだ。

ところが先ほど同様、リッキーは一向に指示を聞かない。あっちへこっちへ、気の向くままに足を進める。