「おい、嘘だろ」


リッキーの頭を「いい子ね」と撫でる野々花を加賀美が憮然とした表情でみつめる。


「どうしたんですか?」
「俺が〝おすわり〟って言ったって、全然やらないんだぞ?」
「え? そうなんですか?」


加賀美とリッキーを交互に見やる。リッキーは次の指示を待っているかのように、尻尾をひらりひらりとゆっくりと振りながら、野々花を見上げていた。

従順そうなリッキーが加賀美の指示に従わないとは。


「リッキー」


加賀美に呼ばれ、リッキーが腰を上げた。


「おすわり」


続いて指示を出すが、リッキーはハァハァと音を立てて呼吸するだけ。一向に座ろうとしない。


「おすわりだって言ってるだろう?」