「部長、大丈夫ですか?」
ついクスクス笑いながらハンカチを差し出すと、加賀美は「サンキュー」と少し照れ臭そうに受け取った。
「犬、飼っていらしたんですね」
「いや、預かってるだけなんだ」
どんな事情なのかは聞かなかったが、犬の扱いに慣れていないように見えたのはそのためらしい。
興味津々に野々花の匂いをクンクン嗅ぎ始めた犬の前に、野々花がしゃがみ込む。
「お名前は?」
そう尋ねると、犬の代わりに加賀美が「リッキー」と答えた。
「リッキー、初めまして」
挨拶をした野々花に小さく「ワン」と吠える。野々花が立ち上がって「おすわり」と指示すると、リッキーは素直に腰を落とした。
加賀美が帰るなり飛びかかってきたが、躾はされているようだ。



