とにもかくにも、瑠璃は社内でも有名な〝お荷物〟。メモはとらないし、話は耳を右から左。仕事を覚えようという気持ちが、これっぽっちもない。
それなのに先輩社員の数名から、『教育係の星さんの教え方がまずいんじゃないの?』などとからかい半分に言われ、野々花は散々な毎日を送っている。
「間宮さん、あのね」
軽く深呼吸をして、キャスター付きの椅子ごと彼女の方を向く。
「自分でメモをとるのととらないのとでは、仕事の覚えが全然違うと思うの」
「そうですかぁ?」
言葉尻を不必要に伸ばす瑠璃。
(髪をくるくるしながら人の話を聞くのをやめられないかな)
毛先をじっと見つめて気のない素振りの瑠璃を見るにつけ、野々花の怒りのインジケーターがじりじりと上がっていく。
(だめだめ、落ち着くのよ……)
膝の上に置いた手をギュッと握りしめ、野々花はそれをなんとかやりすごした。



