「ええっと……どうやるって、先週も先々週も教えたよね?」
もっと言えば、そのまた一週間前にも。いや、彼女が経理部からマーケティング部に異動してきて、野々花が教育係に任命されてからずっとだ。
(何回教えた? もう十本の指でも足りないくらいだと思うんだけど。きっと両足の指を使っても数えきれない)
ところが瑠璃には、その記憶がないとみえる。
「ええ? そうでしたかぁ?」
首をカクンと傾けながら、胸もとに垂れた長い茶髪を指先でくるんくるんと弄んでいた。
「何度か言わなかったかな? 教わったらメモをとろうか」
声を荒げそうになるのを必死に押さえ、優しく、努めて優しく諭す。それでも、気持ちを押さえようと酸素をたくさん吸ったせいで、肩が大きく上下した。
メモをとるのは、仕事における基本中の基本。それに操作マニュアルだって野々花が作って渡してあるのだから、それを確認すれば済む話だ。



