(本当にメールがきちゃった)
驚くべきものを前に、野々花はしばらくフリーズする。数秒後に加賀美をチラッと見てみれば、野々花に一瞬だけ向けた目もとを優しく細めた。
それだけで野々花の胸はたやすく撃ち抜かれる。いったい何度、被弾すればいいのだろう。
(その微笑みは反則……!)
本文には、待ち合わせの場所と地図、時間が書かれているだけではなく、加賀美の電話番号が書かれている。
焦って社内の電話帳を開いて確認すると、加賀美のナンバーは別物だった。つまりそれは、プライベートナンバーにほかならない。
(嘘でしょ……)
次から次へと異変が野々花に降りかかり、もはや処理不可能。仕事ならなんとかして処理できるが、恋愛事情となれば話は別だ。
いやいや、恋愛事情ってなんだと、自分に即ツッコミを入れる。単なる食事の誘いを恋愛に結びつけるあたり、自分はほとほとその道に弱いなと思わされた。
恐れ多くも部長である加賀美のメールを無視するわけにはいかない。野々花は姿勢を正し、【お疲れ様です】から始まるリプライを入力し始めた。
(ええっと、あとはなにを書いたらいいの? ……あっ、お誘いの返事は必須だよね)



