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いつもの業務に戻った野々花は、何度か【新着メールあり】のメッセージがパソコン画面に現れるたびに、ドキンと鼓動が跳ねた。
仕事に集中しながら、加賀美の『社内メールを送るから』のひと言が頭の片隅に居座り続ける。

(あれは単なるジョークだよね。これ以上、あんなところで奇声をあげたりしないようにするためのストッパーだよね)

そう考えなければ、いろいろとおかしい。
しつこいようだが、〝あの〟加賀美なのだ。食事する相手に困るような男ではないし、その相手自体も野々花のようなパッとしない女ではないはず。

モニターに隠れながら加賀美のデスクの方をこっそり覗くと、彼はなんら変わらず真剣な表情でパソコンに向かっていた。

あの誘いが本当なのだとしたら、いっときの気の迷いで出たものだろう。

そう結論を出して、忘れかけていた頃だった。野々花のパソコン画面に新着メールを知らせるメッセージが現れる。

いつものように流れ作業的に〝開く〟をクリック。後追いで、なにか仕事の依頼かと差出人を見た野々花は、飛び上がるほどに驚いた。
実際に「わっ」と声を出したため、向かいの席の松村から「どうかしました?」と心配されたくらいだ。

差出人は加賀美だったのだ。