それが涙まで流しそうなほどに笑っていた。
「鬱憤がたまっているなら聞くって言われちゃった」
「それで聞いてもらったの?」
「そんなのできないよ。後輩の指導もできない無能な社員だって思われたくない」
「憧れの加賀美部長でしょう? せっかくお近づきになれるチャンスだったのにー」
スツールから落ちそうになるほど、望に脇から小突かれた。グラリと身体が揺れる。
「お近づきって。相手は加賀美部長だよ? どうこうなるはずがないよ」
ハイスペックイケメンが、社内の一社員を恋愛対象の女性として見るわけがない。それこそ近づくどころか、遠ざかるだけだ。
「そんなのわからないのが男と女でしょ。私だったら、〝それじゃ飲みながらにしませんか?〟なんて誘っちゃうけどなー」
「望ならそうするだろうね」
「あらなぁに? ちょっと棘のある言い方じゃない?」
「違うってば。望みたいに美人だったら、できるでしょって話」
望に鋭い眼差しで見られ、急いで訂正する。たしかに言い方は悪かったと、野々花も反省だ。



