「それなんだけどね……」
野々花の〝奇行〟を知っているのは望だけだった。ところが今夜は……。
「加賀美部長に聞かれちゃった」
「加賀美部長に? どうしてまた?」
望はマスカラでぱっちりとさせた目を見開いた。
「夜な夜な備品庫から妙な声が聞こえるって相談されたみたいで、中に隠れてたの」
「で、野々花はそれに気づかずに雄叫びをあげたってわけね」
項垂れるようにコクンと頷き、出されたばかりのカルーアミルクに口をつける。思った以上に甘い仕上がりだ。
望はおもしろそうにクスクスと笑った。
「いきなり部屋が明るくなってびっくり」
「で、部長は?」
「大爆笑。涙まで浮かべてた」
「あの部長が?」
望も意外に思ったようだ。
笑わないわけではないが、普段の冷静な感じからはとうてい想像ができない。いつも凛として、さざ波すら立たない湖面のような感じなのだ。



