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野々花がやって来たのは、望とふたりでたまに来る『フェアウィンド』というバーだった。

カウンター席が六つとテーブル席がふたつだけのこぢんまりとした店である。暖色系の明かりで統一され、カウンターテーブルの木の温もりを引き立てている。

隠れ家的な雰囲気が好きで、野々花はひとりで来ることもあった。


「お待たせ」


野々花が到着したとき、望はすでに三杯目を飲み始めたところだった。テーブルにはつまみとして出された空の皿がふたつ並んでいる。

目鼻立ちがはっきりしているうえ、ばっちりメイク。おまけに凹凸のはっきりした抜群のスタイル。そのまま〝夜の蝶〟になれそうな望の顔立ちは、野々花とは正反対と言える。

いつだったか、『もっとしっかりとメイクすれば、野々花だってもっと綺麗になれるよ』とアドバイスをされたが、未だに実行に移していない。
でも、密かに温め続けてきた恋が儚く散った今となっては、もうそれも不必要だろう。


「おつかれさま」