笑いごとではないんだけど!と眉間に皺を寄せたところで、瑠璃のひと言を思い出した。『そんな怖い顔してたら幸せが逃げちゃいますよ』という、痛烈な言葉だ。
まさにその通り。野々花はまさに幸せを逃したところだ。つまり、瑠璃の言葉は悔しいけれど正しかったことになる。
これ以上、幸せは逃したくない。人差し指と中指でその皺を伸ばし、なんとか笑ってみる。
それがかえって変顔になっているとは、自分では気づいていない。
『今から来ない?』
さては、会う約束をしていた相手に振られたな?と野々花が直感する。
狙いをつけている男性と会うんだと、今日のお昼にはルンルンしていたはず。
『後輩ちゃんのおもりで疲れたでしょ? 軽く飲んで帰ったら?』
今日はいつも以上にぐったり。しかも加賀美にあらぬところを目撃され、疲労感が半端ない。
失恋記念も兼ねて少し飲んで帰ろう。
「そうしようかな」
野々花は、望の誘いに乗った。



