門倉は同じくマーケティング部に所属している先輩の女子社員だ。

そしてその声の主は、まさしく野々花だろう。こんな場所で、ほかに〝おぞましい〟と言われるような声を出す人はいない。


「それで今夜、こっそり張り込みを。そうしたら……」


思い出し笑いか、加賀美は再びクククと肩を震わせた。

張り込みをされていたとは想定外。まさかここでの叫び声が漏れ、誰かに聞かれていたとは。


「も、申し訳ありません……」


野々花は、肩をすぼめて身体を小さくしながら頭を下げた。

(本当に恥ずかしい!!)

よりによって加賀美に聞かれるとは、失態も甚だしい。
きっと加賀美は変わった女だと思ったに違いない。いや、それならまだいい。頭が狂った女だと思っただろう。なにしろ、こんな暗がりで大きな声をあげているのだから。


「間宮瑠璃に相当手を焼いているみたいだな」
「いえっ、それはもうあの、なんていうか……」