野々花が焦って振り返ると同時に、クククと堪えるような声が聞こえたあと、アハハハと豪快な笑い声がした。
(だ、誰!?)
スチール棚の向こうから笑いながらコツコツと近づく足音が聞こえ、身構える。
トクトクと高鳴る心臓を両手で抱くようにしていると、いよいよその主が姿を現した。
「ぶ、部長!?」
なんと野々花の前に現れたのは、あの加賀美だった。野々花がひっそりと想いを寄せる、みんなの憧れ。エリート部長の加賀美だったのだ。
こんなところに彼が現れるとは思いもせず、野々花はその場で固まる。
「いや、悪い。ごめん」
涼しげな目もとに涙を浮かべた加賀美は、爆笑こそ収まったが満面の笑みだ。思い出したらまたすぐにでも声を立てて笑いそうな様子がうかがえる。
笑顔を見たのはこれまでにもある。でも冷静で知的な加賀美が、大爆笑するのを野々花は初めて見た。
鼻に皺をくしゃっと寄せたキュートな笑顔に、鼓動がトクンと跳ねる。



