「私、これで帰ります」
「え?」
「ですから、五時半になったので帰りますね。今日は男友達とデートの約束があるんです」
時報もびっくりの正確さに驚きが半分、仕事を放り出して帰る異常行動に呆れるのが半分。
とにかく、野々花は目が点だった。
「これはどうするの?」
輸入雑貨店の資料を左手で持ち上げる。まだ第一段階。このあとレポートをあれこれと作成しなくてはならないのだ。
「星さん、残業するなら、それも一緒にやっていただけませんか?」
「なにを言って――」
「だって、私に教えながらやるより、星さんがひとりでやった方が早いですよね」
それはたしかにそうだ。ああでもない、こうでもないと、いつまで経っても慣れない瑠璃に手取り足取り教えるより、自分でさっさとやった方が早い。
(でもでも! それじゃだめなのよー)
うっかり納得しそうになる一歩手前で、野々花が気づく。



