加賀美が芝居じみた笑みを浮かべながら、野々花たちを追い越していく。
目が笑っていないように見えるのは気のせいか。


「え!? 部長がなんで」
「ごちゃごちゃ言わずに仕事だ」


一瞬呆気にとられた松村が、早い足取りの加賀美を追いかける。


「部長、なに言ってんですかぁ。俺は星さんを誘ってるんですよ?」
「だから無理だと言ってるだろ」
「意味わかりませんけどー!」


松村の叫びにも似た声が通路に響いた。

賑やかなふたりを追うように歩く野々花の脇腹を、望が意味ありげな顔で小突く。


「加賀美部長、どういうつもりだろうね?」
「べ、べつに深い意味はないと思うけど?」


単に、リッキーの世話をする約束があるから無理だと言っているのだろう。

そうわかっている反面、どことなく野々花を本気で誘い始めた松村を邪魔したように見えなくもなくて、心が浮足立って落ち着かない。