高原とはまともに会話をしたことがない。


それなのに、ちょっと顔を見ただけであんな風になってしまうなんて、思い出しただけでも体が震えた。


あたしは宿題を途中やめにして、小指の赤い糸を見つめた。


何度も指から外そうとしたけれど、ダメだった。


キツク巻かれているワケじゃなさそうなのに、それは全くほどける気配がない。


ふと、ペン立ての中にあるハサミに視線が向いた。


高原が相手なら、この糸を切ってしまってもいいんじゃないか?


そう考えて、ハサミに手を伸ばす。


糸に立てて切ろうとした、その瞬間だった。


玄関が開く音がして「ただいま」と、母親の声がした。


スマホで時計を確認すると、もう午後5時を過ぎている。


「うそ、もうこんな時間?」


あたしはそう呟き、ハサミを置いて自室を出たのだった。