呼びかけると、ぴくりと髪が揺れた。 「要求するのもヘンな言葉だけど、「おめでとう」って、言って?」 「………」 一歩。那也に距離を詰める。 また髪が揺れた。 「那也からそれがもらえたら、一番嬉しい」 そう言ったくせに、俺は那也の握られた拳に触れていた。 包み込むように、そっと重ねる。 「那也。今日、俺はそれがほしい」 那也からの、言葉が。 俺が退かずにいると、那也は俯いたまま口を動かした。