「……あ、ありがとう」



私に続いてバイクに跨った優生はエンジンをかけて穏やかに発進した。


私は前に乗る優生の腰にしがみついて、激しい疾走感を感じるかと思いきや、そこまで感じなかった。



「このくらいだったら普通でいられるのか」


「これがバイクの一般的な速度。一体、どこで感覚履き違えたのよ」


「でも、その度にお前がギャーギャー言うの面白かった」


「そりゃ、ああなるのも仕方ないでしょ」



家までの距離の関係でバイクで私を送ることになっている。


だけど、その運転はいつぞやの暴走と同じで、私の感情を引き出すには十分の速度だったのだ。


なので、今日みたいに普通の速度で運転してくれたら大変助かるけど、かえってどこか不自然というか違和感を感じてしまう。



「どうしたの、今日は走る気分じゃないの?」


「⋯⋯なんだろうな」


自分でも何を言いたいのか分からないようだ。


しがみつく手の力を緩めて、優生の考えがまとまるまで風を感じていた。