──これは月那の幼い記憶。



『さくやくん、かけっこまたイチバンだ!』


『さくやくん、めちゃくちゃカッコいい……!』



朔夜の幼少時代はこれはもうモテモテだった。


男の子のモテる基準が"足が速い"ということだったので、運動のできる朔夜がそうなるのは自然なことだった。



『ねえ、なんでつきなちゃんはかけっこイチバンじゃないの?』


『え?それは……』


『だって双子なんでしょ?さくやくんは足速いのに、つきなちゃんはかけっこビリだったじゃん』



月那は努力家だった。


かけっこの前日は朔夜と一緒に特訓していたというのもあって、純粋な言葉が突き刺さった。


パパに引き取られて、たくさんの愛情を注がれたというのが救いだったが、それでも誰かと比べられるという苦しみがあったようで。



『……っ』



月那は何も答えられずにただ唇を噛み締めていた。