まるで墨絵みたいーーー
秋元の羽織る漆黒のチェスターコート
その広い背中に落ちる真っ白な雪との対比に美季はふとそんなことを思った
食事は評判通り素晴らしかった。だが今日の秋元はいつも以上に言葉少なく、たまに美季が話しかけてもどこかうわの空で、少々気詰まりな食事だった
店を出てからも何も言わず、スタスタと歩きだす
仕方なく後をついてきたら、いつの間にか人気のない遊歩道に来ていた
にぎやかな街中から一本裏手に入ったここは、道の両側を常緑樹で囲まれ、足元はレンガで舗装されている
そのレンガも、ポツンポツンと置いてあるベンチや、今は葉っぱしか見えない花壇の上も、うっすらと真綿を被ったように雪が積もっていた
―――まだ帰らないんだろうか?
朝も早かったしいい加減眠いし、クレーム対応で神経を使ったうえ、高級フレンチに訳も分からず連れてかれて、いろんな意味でお疲れMAXだ
月曜からまた今日の後処理を上乗せしたお仕事が待っているのに
明日一日じゃ体は休めてもモチベーションは回復できそうにない
せめて早く帰って、自分を甘やかしてやらないと身が持たないよ
ましてや今日は
「誕生日なんだから…」
思わず漏れた一言
年に一度なんだし…そう独り言を続けようとしたところに
「もう祝う歳でもないだろう」
前を歩く人から返されて、美季の足がピタッと止まる
―――ブチッ
堪忍袋の緒が盛大な音と共にはじけとび、怒りのバロメーターが一気に振り切れた



