今まで仕事の鬼だと思っていたけど、美季の望みを叶えようとしてくれたのだと聞いて、もしかしたら本当は優しく情の深い人なのかもしれないと思う
ちょっと勘違いしやすく、思い込んだら一直線だけど、それだけ純粋な人だと気づいてしまった
ブラックなマネージメントは私の希望を忠実に彼なりに叶えようとした故だった
ううん、今までだって、私のちょっとした呟きや意見もちゃんと聞いて、答えをくれていたことを思い出す
それでも美季はひとつだけ気になることがあった
「課長?なんでチューリップなんですか?」
ふつう、プロポーズならバラじゃないですか?と訊ねる
「何でって、君の誕生日だからだ。2月の誕生花はチューリップだろう」
ああ、やっぱり!
なら、秋元はわかってる人かもしれないとさらに質問を重ねた
「……よく、ご存知ですね。でもそれなら他の花もありですよね?」
うっと言葉に詰まったように秋元が呻く
「それは…」
美季は確信を持った
彼なら、私の欲しい答えをくれる、”そういうことを知っている、そして大事にしてくれる”人かもしれない
期待を込め、核心を問う
「赤いチューリップなのは、何故ですか?」
秋元の丸まっていた背中がぴくっと震える
一瞬の間の後、膝の上に乗せた両手をぐっと握り、ゆっくりと顔をあげた
私は彼の前に立ち、続く言葉を待つ
二人の視線が重なり合った
秋元は美季を見つめたまま背筋をピッと伸ばすと、雪道の上に片膝をついた
美季は息をのむ。鼓動が高鳴り、口から心臓が飛び出しそうだ
秋元はチューリップの花束を両手で胸に抱えると、中世の騎士のように美季へと捧げる
「愛の告白」
真摯な瞳と声が美季を貫き、心臓がドクンっと跳ねた
「真実の愛、永遠の愛、ロマンチックな愛…赤いチューリップの花言葉全てが、君に捧げる私の誓いの言葉だからだ」
雪に濡れた前髪がひとすじ額にかかり、黒曜石の瞳の熱に艶を添える
完璧な美貌を持ちながら軽薄さのかけらもない
ただ真剣に純粋に愛を告げられ、体中の細胞が沸騰しそうなほどの歓喜に包まれる
幸せで目眩を覚える自分に自分で戸惑いつつ、抑えていた気持ちが膨れ上がっていく
こんなにも彼を好きになっていることに初めて気づいた



