【短編】サクラ色の貝殻をきみにあげる




「桜井……?」


「…ごめん、急に走って。帰る」


「え、待てよ…」




驚いた顔で。

引き留めようとする夏目くんを振り切って、海岸に戻った。



寂しそうにぽつりと置いてあった自転車にまたがって、蒸し暑い海の風を切って走る。





嫌いだ、海なんて。

夏目くんなんて、嫌いだ。


だってきみさえいなければ、私もっとうまく笑えてたのに。



きみの気持ちに気づかなければ、
きみの作り笑いを見抜けなければ。




こんなわがままな言葉をきみにぶつけたりしなかったし、こんなに胸が痛むことだってなかったのに。




……大嫌いだ、海なんて。