電車を何度か乗り継ぎ、湖までは歩いて行くらしい。お兄ちゃんと私は、木や草花が咲き並ぶ道を、手を繋いで歩いた。

「なんかさ、暑いけど暑くないね?」

 日差しは強いのに、東京と比べるとちっとも暑くなくて、私はそういう言い方をした。

「変な言い方だけど、確かにそうだな。避暑地だからな。おまえ、こっちに来たの初めて?」

「うん」

「そっか。真夏でも、夜は寒いくらいなんだ」

「あ、だからパーカーを持って来たのね?」

「まあな。たぶん着ないと思うけど」

 着ないって、どういう意味だろう。あ、そうか。日が落ちる頃、私達はもうこの世にいないって意味か。

「ねえ、歌を歌おうよ」

 私は、重くなりかけた空気を変えたくて、そう言った。

「歌か。いいね。なに歌う?」

「ん……”おお牧場はみどり ”なんて、どう?」

「定番だけど、いいんじゃないか?」

 私達は、口を大きく開けて歌を歌った。時々涙が込み上げて、つっかえたりはしたけども。

 しばらく歩くと、目の前に大きな湖が見えて来た。後ろには富士山がそびえ、湖面は山の緑を映しながら、キラキラ輝いていた。

「うわあ、綺麗……」

「ここはさ、この辺の湖の中じゃマイナーな方なんだ。殆ど人がいないだろ?」

 確かに、遠くの方に釣り人が何人かいるだけで、殆ど人はいなかった。

「あっちに見えるのがうちの別荘、兼、田原のおじさんのアトリエだよ」

 お兄ちゃんが指さした先には、湖畔を望む、普通の民家より少し大きめな建物が立っていた。

 私達は湖の際まで行き、溶岩の上に並んで腰掛けた。