肩にかけていた鞄が、後ろに強引に引っ張られた。
 5番さんが叫びながら、エレベーターに乗らせまいとしているのだ、とわかったときには、私はバランスを失っていた。

「きゃあっ!」

 後ろ向きに転びかけたその時だった。

「危ないです!」

 床に打ち付けられるはずだった私の体が、抱き留められた。
 結城さんが正面から、私を抱き留めている。

「朝井さん、大丈夫ですか?!」

 両手で正面から私の上半身を抱える結城さんは、初めて焦りの表情を見せていた。

 ドキッとさせられる、いい香り。
 トークタイムには感じなかったその甘い香りに、私はときめいてしまう。
 心臓が、跳ねている。
 転けそうになった恐怖からではない。
 結城さんに、ときめいています……!

 昔、翔馬に抱き留められた時以上に、ドキドキしている気がする。

 結城さんは紳士的に私を立ち上がらせると、5番さんに顔を向けた。

 そして、はっきりと一言。


「僕の選んだ人を傷つけたら許しません」


 か、格好いい……!



――こうして、私たちの交際が始まったのだ。