その日はなかなか眠れなかった。

(あのキスって、どういう意味なんだろう……)

 私は間違いなく恋に落ちている。

 翔馬もひょっとして同じ気持ちなのではないか。話も盛り上がったし、手も出さなかった。

 それに第一、飲み代は割り勘じゃなかった。翔馬が全額支払ってくれた。

――まず間違いなく脈はある。

 そう確信すると、私の心臓はバクバク音を立てた。

(あんなイケメンが、私と両想いなんだ……!)

 もちろん、それは誤解だったのだけれど。




 その証拠に、翌朝私が送ったメッセージにはなかなか既読が付かなかった。

 数分ごとにアプリを起動し、トーク画面をいくら確認しても、既読は付かなかった。

 そんな状況でも私は翔馬に疑念を抱くことはなかった。
……本当に馬鹿だなあ。


(土曜日なのに、仕事なのかな)

 昨夜一切仕事の話をしなかったというのに、それに気づかない馬鹿な私。


 早く気づけよ、23歳の頃の朝井ひばり!! あんたは遊ばれている!!


 私が送ったメッセージはだいたいこんな感じの文面だったと記憶している。

(もう今はトークルームを削除したので、正確ではないが。)


「翔馬さん、昨夜はありがとうございました!

 ワインもとってもおいしかったですが、翔馬さんがかっこよすぎて見とれちゃいました。

 今度は日本酒バルを案内したいので、暇な日を教えてください!」

 既読がついたのは、2日後の昼間だった。